べすとぷれいす | 小説 BEST PLACE | FILE004:超軍用犬アルファ

FILE004:超軍用犬アルファ
[SUPER ARMY DOG]
月の輝きが美しい、深夜午前0時過ぎ。
ジェット・タービン特有の先鋭的な機械音。そして、空気を切り裂く大型ローターの回転音が、漆黒の空気を支配していた。
ジェットエンジンが、航空機に革命的進歩を与えた1950年代。
フランスのチュルボメカ社が、ヘリコプターのジェット化に成功した。
ターボシャフト・エンジンと呼ばれるこの発明で、ヘリコプターは新たな可能性を模索できるようになる。
飛行速度、上昇高度、貨物重量など、どの性能をとってもガソリン・エンジンでは実現不可能な数字ばかり。軍用大型ヘリが貨物を満載して飛び回れるのも、このエンジンのお陰である。……だが、扱いを間違えれば大きな代償を払わねばならない。
制御の一部をコンピューターにバトンタッチした、新世紀であってもだ……。
……軍用ブーツの靴底から感じる、ヘリコプター独特の浮遊感。
速度計、高度計、姿勢儀 旋回傾斜計、昇降計、方位磁針……その他、ターボシャフト・エンジン用の各種計器類等で埋め尽くされた操縦席。
そこには、メーター類のバックライトに、頬を照らし出される2つの人影があった。
操縦に必要な両手両足の僅かな挙動を許す以外、無駄なスペースは与えられない。
生身の人間に、操縦装置の1つになる事を強要する特等席。……それでも航空機の操縦技能を持つ者は、やはり特殊な存在だ。
狭いシートに体を埋められる事、精密な操縦システムになりきる事こそが、彼らパイロットと呼ばれる人種の誇りの1つであろう。
操縦桿を握る機長のヘルメットには、大袈裟に牙の鋭さをアピールするコミカルタッチの虎がデザインされていた。鼻から頬にかけて走る深い皺には、軍人として、パイロットとして円熟期に達した雰囲気を感じさせる。鼻歌混じりの仕事ぶりから、多少のユーモアを解する度量も持ち合わせていそうだ。
「ナインシュタイン機長、2番エンジンの油圧が低下しています。」
隣のシートに座る若い女性兵士が、落ち着いた語気で現状を報告する。
「コイツの2番エンジンには、一癖あってな。なぁに、いつもの事さ。メアリー」
機長のナインシュタインが、副長のメアリー・ファルコナーに答えた……その直後、彼らの操縦する大型輸送ヘリ・チヌークが大きく揺れた。
コンソール・パネルでは緊急事態を知らせる赤い警告灯が幾つも明滅し、警報ブザーが鳴り響く。
「機長、2番エンジン・ブーストポンプ、及び油圧系にトラブル発生。」
「この野郎、ヘソ曲げやがって……。よし、2番エンジン停止、出力をカットしろ。」
「了解、2番エンジン停止、出力カット。」
メアリーは機長の指示通りに操作を行い、ナインシュタインは、1番エンジンのパワーを上げた。その結果……機体は、再び安定飛行を取り戻す事に成功した。
エンジンを2発積んだ航空機は、基本的に1発が停止しても飛行に問題は無い。
「貨物デッキに物資を満載してるからな。1発止まると、……さすがにキツイ。」
だが……現状は、ナインシュタイン機長の台詞通り。ここは、慎重に行こう。
輸送ヘリは、眼下の針葉樹林を掠めるほどに高度を下げる。万一、墜落しても木がクッションになってくれるだろう。……なるべくなら、そうならない事を祈りたい所だが。
と…、メアリーが、外の景色に目をやった。
森で何か光ったように見えた……そんな気がしたのだ。ほんの一瞬だったので、確信はできないが……。
「どうしたメアリー?」
「あ……いえ、何でもありません。」
「では、管制塔に着陸許可を申請してくれ。エンジントラブルの状況も併せて頼む。」
「了解。」
ヘリが飛び去ったその真下に、確かに人工物……黒いワゴン車の姿があった。
いくら目立たないようにとはいえ、月明かりの反射までは誤魔化せない。
ナビ席の窓から首を突き出したコーディが、一言呟いた。
「……あれは、米軍のヘリだね……。」
BEST PLACE FILE004
超軍用犬アルファ [SUPER ARMY DOG] ACT 2
This is STAR-LIFTER1. DELTA-CONTROL Please Contact. The engine No.2 isn't acting well. Please permit to landing.
(スターリフター・ワンよりデルタ管制、応答せよ。2番エンジンにトラブル発生。)
This is DELTA-CONTROL. STAR-LIFTER1 TEN-TWO. I'll permit to your landing and fix firefighters.
(こちら、デルタ管制。スターリフター・ワン、消火班を手配した。着陸を許可する。)
総重量20トンを超える大型ヘリコプターが、フェンスで囲われた敷地内に降り立つ。パイロットのナインシュタインは、暗視ゴーグル越しの狭い視界にもかかわらず、ヘリポートのHマークに寸分の誤差も無くピタリと降りてみせた。
余程、この作業に熟達しているのだろう。
2番エンジンの状況は想像以上に悪く、エンジンフレームを覆い隠すほどの白煙を吐いていた。巨大なメインローターが巻き起こす強烈な下方気流……ダウンウォッシュが、煙をヘリポート全体に拡散させる。
風と煙を掻き分け、到着を待ち侘びていた消防車が輸送ヘリに近づいてきた。
消防車から消火剤が吹きかけられ、消防隊員が鎮火を確認すると……、今度は消防車と入れ替わりにフォークリフト数台が貨物の荷下ろし作業に取りかかる。
手慣れたプロ集団のお手並みだ。
消防車から消火剤が吹きかけられ、消防隊員が鎮火を確認すると……、今度は消防車と入れ替わりにフォークリフト数台が貨物の荷下ろし作業に取りかかる。
手慣れたプロ集団のお手並みだ。
パッケージの隙間を縫い、ナインシュタイン機長とメアリーが貨物デッキから這い出る。
「とんだ目にあったな。タイガーの旦那。」
「まったくだ……。で、親っさん……修理にどれくらい掛かりそうだ?」
タイガー・ナインシュタインに”親っさん”と呼ばれた小柄な老軍人は、品定めするようにヘリを眺め回す。老練な整備班長は鍛えられた眼力で、機体の痛み具合を見抜くのだ。
「そうさな……、2番エンジンは全取っ替え。機体のC整備も込みで……これ位だな」
親っさんは、丸三日という意味で指を3本立てた。
「そりゃ……長すぎるぜ。せめて、2日にならないか?」
「飛ばないと、勘が鈍るってか?」
「ああ、そんなとこだ。……メアリーの操縦訓練も兼ねてるんでね。」
親っさんが、彼女の方に目をくれた。メアリーは、ナインシュタインの横で直立不動。
「新しい相棒か? 筋は良さそうじゃないか。」
「まぁな、唯一の欠点は筋が良すぎるって事くらいかな。」
「機体も命も、失うのは一瞬だ。休める時に休んでおきな。」
「OK、分かった。……今回は、そうさせてもらうよ。」
ヘリポートに撒き散らされた消火剤。荷下ろし作業に奔走するフォークリフト。作業の段取りを始める整備班。……良くある軍用施設の風景……その中にあってメアリーは、異質な物を感じ取っていた。……森で見かけた光も気になる。
「どうしたメアリー? 宿舎は、こっちだぞ。」
「あ、いえ……何でもありません。今、行きます。」
そうよ……きっと気のせいよ。
メアリーが小走りに駆けていったその背後で、確かに小さな異常は発生していた。
二重三重に張り巡らされたフェンスを断ち切り、施設に潜り込む侵入者。
時刻は、0時30分。警備兵の交代と重なる、絶好の機会だ。
「よし、行こう!!」
潜入を果たしたベイク、ルーシー、コーディの3人は、夜間照明と建造物が織りなす影に紛れ、待ち受ける何かに向かって走り出した。
- 作者:ねこ博士(アマチュア小説家猫)
- TVゲームをこよなく愛する猫。
『小説 BEST PLACE』の執筆に熱く燃えている。